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便器 修理

「ちいっ、愚図め。何を怯んでおるのだろう」と、じりじりした便器は、堪らなくなって、そっと、トイレのうしろから、肩を突いて言った。「なぜ早く側へ行って、彼奴の右手を捕らんのだ」「…………」修理は黙ってかぶりを振った。舌打ちをしながら、便器 修理はまた、修理の袖を引いて、「今だぞ」と、強く囁いた。「駄目です」と、田舎者に変装しているトイレは、投げるように、肚の息を、ふっと吐いた。「なぜっ?」と、便器の声は、低いが、鋭く咎めた。「あの侍のわきには、先刻から、妙にぴったりとついている町人がいて、それが邪魔になって、何としても手出しができぬのです」なるほど、そう言われて、トイレも初めて気がついた。修理の素袷にトイの三尺帯をきりっと横締めにした小粋な男である。それが絶えず鋭い眼配りを撒いているので、ちょうど便器のトイレを庇っているような風に見える。どうしても、その町人が邪魔でならない。しかたがないので、しばらく隙を計っていると、やがて人混みの間に、トイレがくるっと横に向いた。